NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
本当のワインメーカー!?
第171回コラム(Oct/2016)
本当のワインメーカー!?
Text: 山口真也/Masaya Yamaguchi
山口真也

著者紹介

山口真也
Masaya Yamaguchi

今後10年でワイン生産が最も成長する国はどこかと思い、妻を説得し夫婦でニュージーランドへワーホリに。都会育ちゆえ山も畑もほとんど見たことがなく、初めての大自然での生活に悪戦苦闘しながらも、ワイナリーで働く充実した日々。前職ではワインショップ、レストランの立ち上げ、運営する会社に勤めていたので、作り手側と飲み手側、売り手側と買い手側双方の視点からニュージーランドのワインを学び楽しむことを目標にしています。

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みなさんはお店でワインを選ばれる際、どんなことを思われますか。自然の恵みと人の手があって成立するのがワインです。気候風土やどのように造られているかに物語があります。

一本のワイン、またそのワイナリーを知ろうとする際、ワイナリーのオーナー、醸造責任者、栽培責任者、が直接語ることがそのワインのストーリーとなりますが、ワイナリーが大きな会社であったりすると、マーケティング・マネージャーやブランド・アンバサダーなどのインタビューやワインメーカーズディナーでの話がそれに変わるものとなり、あるいは、雑誌やインターネットでのクチコミ等の情報がそのままワイナリーの評価になることもあるかも知れません。

そこで今回は、ワイナリーの末端とも言えるポジションで働く季節労働者達に目を向けてみたいと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、毎年海外から年間200万人以上が訪れる観光大国ニュージーランドには、それだけの観光客を迎え入れる宿泊施設やレストランがあり、そこには多くの働き手が必要となってきます。そんな観光地にはハイ・シーズンとオフ・シーズンがつきものですから、場合によってオフ・シーズンの間は閉めている店にとっては、ワーホリや留学で来ているアルバイトたちは雇用者にとって都合が良く、働く側にとってもハイ・シーズンのエリアや違う国へ移って行くという、双方にとってとてもいい関係なのかも知れません。

北島に住む僕も、夏の間一緒に働いていた彼らが冬にはスキーやスノボを楽しむためと職を探しにハイ・シーズンの南島へ行くのをたくさん見送りました。働く内容に意義を見いだしていない場合はオフ・シーズンの場所にとどまることは退屈でしかなく、限られた期間の中でいくつかの街を回ってみたいという人たちが大多数です。

人口約450万人のニュージーランドでは必ずしも働き手が足りているとは言えません。資料によれば農業大国のニュージーランドでは食料自給率は300%を越えるとも言われており、1次産業の全体の輸出の6~7割となっています。収穫の時期にはあらゆる場所でフルーツピッキングなどの仕事を募集しています。

ワイン造りは1次産業(農業)+2次産業(醸造)+3次産業(マーケティング及びワイナリーやレストランとしての観光)で6次産業などとも言われていますが、非常に人の手がかかる産業であることは言うまでもありません。

先日僕の働くワイナリーのマネージャーに収穫の時期どれくらい応募が来たのか聞いたところ実際に採用した30人程度に対して応募は200人を越えたと言っていました。たくさんの若い労働力が一時的に集まり「毎年募集はとても簡単だ」と。ニュージーランドは、観光において魅力的であること、英語圏であることや働き滞在する為に必要なワーホリのビザ申請が他の国に比べ簡単であることが、農業においても若い労働力を得やすい要因であるようです。

以前チームにいたフレデリッコはイタリア出身なので、「イタリアには世界遺産になるほどの景観の葡萄畑をはじめ、素晴らしいワインがたくさんあるのに、なぜニュージーランドにきてワイナリーで働いているのか?」尋ねたことがあります。彼は昨今のイタリアの経済情勢の悪化をも踏まえながら「イタリアでの農業は労働環境が劣悪で、雇用者が労働者を奴隷のように扱う」と言っていました。もちろん彼自身が働いた環境がたまたま悪かっただけかもしれませんし、彼自身の人生の中での何か一つの転機として南半球へ渡ってきたこともあるようですが、牧歌的な雰囲気をもつこの国へ憧れ、毎日を楽しんでいるようでした。

フィンランドからきたローラはヘルシンキ郊外で友人とルームシェアをして暮らしていたようですが、精神的にストレスを抱えていたらしく人生のホリデーとして南半球へ渡ってきたようです。バックパッカーとしてポリネシアの島をいくつか転々とし、オーストラリアのワイナリーで1年働きここに来ました。彼女は「先のことはまだわからないけれど、できたらお金を貯めて南米に行きたい」と言っていました。

このようにニュージーランドにくる理由も、ワイナリー/ヴィンヤードで季節労働者として雇われて働く目的も様々ですが、雇う側、雇われる側それぞれ条件が合致し、そんな各国それぞれの若者達の労働力があってワイン造りは支えられているのです。長い年月からすれば僕も含めたみんなが一時的な滞在者にしか過ぎませんが、同じようにフランスやイタリアではヨーロッパ全土やアフリカなどから、アメリカではメキシコや南米からの季節労働者が今日も畑で汗を流しています。

単純作業でありながらも重労働。ある意味においてワインの値段と人の手は比例しているとも言え、高級なワインであればあるほど労働力は必要になります。

そんな汗と土にまみれたたくさん の手によってワインは造られているということを、今夜は傾けたグラスのワインから感じてみてはいかがでしょうか。

2016年11月掲載
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