NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第25回コラム(Apr/2006)
ダニエル・シュスター、日本を愛するワイン醸造家
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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ステイト・ハイウェイ1号線をクライストチャーチから北上すること40分。そこには、ワイパラと呼ばれるワイン産地があります。一年で一番忙しい収穫期である5月もそろそろ終わる頃なので、醸造家に直接会って話を聞けるかもしれないという期待を膨らませて、ワイナリー巡りをすることにしました。ソムリエの友人、Sが、ダニエル・シュスターを大絶賛していたのを覚えています。ニュージーランド国外の優れたワイナリーにてコンサルトをするほどの、ワイン醸造では第一人者だとのこと。数あるワイナリーの中、今回はダニエル・シュスターを訪れることにしました。

門をくぐり、左右にヴィンヤードを眺めるドライブウェイを抜けると、テイスティング・ルームのある、モダンなセラー・ドアーが見えてきました。テラスのテーブルで打ち合わせをしていた女性は、ダニエルの奥さん、マリー。彼女の笑顔に迎え入れられて入ったセラー・ドアーで、5種類のワインを試飲させていただきました。すると、なんだか和食が食べたくなってきます。どれも上品で繊細な味わいだからです。リーズリングにはだし巻卵、シャルドネにはレモンを絞った生牡蠣やアジのタタキ、ピノ・ノワールにはブリの照り焼きやしょうが焼きが、特に合いそうです。益々、醸造家のダニエルと話がしたくなり、マリーにお願いすると、快く承諾してくれました。

今日は今年最後の収穫日だとのことで、作業を抜け出してわざわざ会いに来てくれたダニエルは、ジャージ姿の気さくな『お父さん風』。開口一番「日本は素晴らしい国だ」と、静かに、でもしっかりとした口調で始めました。

「1986年にこのワイナリーを始める前に、どの国の人にワインを飲んでもらいたいか、先ずはマーケットを考えたんだ。ニュージーランドのワインが一般的に、アルコール分が高く、樽香をしっかりと帯びた、『たくましい』ワイン造りに向かっている中、僕のワインは逆を走ってきた。フランスのデリケートで伝統的なワイン造りこそが僕の目指すもの。そして、ワインは食事の一部だし、食事と一緒に楽しむことがとても大事だと思う。そこで、繊細な日本の料理に注目したんだ。」

日本人の、バランスと全体の構成を重んじる国民性を、ダニエルはとても評価しています。例えば日本庭園の不均衡のある均衡。つまり、石と石の間の不均一なスペースだけを見れば、バランスが悪いように見えますが、少し離れて全体を眺めると、とてもバランスが良く、まとまった感じを受けますね。料理に関しても同じことが言えると、ダニエルは言います。

「日本の繊細な料理と飲むには、フル・ボディの個性の強すぎるワインは、しつこい、くどいと思えるけれど、僕の造るワインは、和食にぴったりだよ。日本人の礼儀正しさや穏やかさ、バランスの良さと繊細さに、僕の目指すワインとの類似点を見出し、親近感が沸いたんだ。ああ、この素晴らしい国の人々に、僕のワインを飲んでもらいたいってね。」

「やっぱり。和食が食べたくなるわけだ。」観察眼のあるダニエルに感銘を受け、思わず声に出してしまいました。これほど、日本を愛するワイン醸造家がニュージーランドにいたとは、驚きです。

更に、ダニエル・シュスターでは、生産を少量に抑えることで、オーガニックで酵母無添加、ナチュラルで高品質のワイン造りに集中することに成功しています。

和食党の方にお勧めしたいワイナリー、ダニエル・シュスター。日本に輸出されている量はほんのわずかですが、もし見かけたら、是非試してみてはいかがでしょうか。

2006年5月掲載
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