NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第50回コラム(Jun/2007)
新しいコルクの形~ダイアム・コルク
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
ディクソンあき

著者紹介

ディクソンあき
Aki Dickson

三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。

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ニュージーランドのワインにスクリューキャップが用いられるようになって、今年で6年が経ちます。2001年の6月まで、スクリューキャップを使用したワインがゼロだったのに対して、2002年末には14%、2004年には32%、2005年にはなんと、72%と飛躍。

そして現在では、ニュージーランドで造られるワインの90%に、この優れた栓方法、スクリューキャップ(ステルヴィン)が使われているのです。すっかり定着したスクリューキャップですが、そもそも、なぜコルクが使われなくなってきているのか。ここでちょっとおさらいしましょう。

天然コルクは、何世紀もの長い伝統を持ちますが、ワインをコルク汚染させてしまいます。コルク汚染は約12本に1本の割合で発生し、カビ臭においと味がワインに移り、ワインの最大の特徴である“香り”が全くない、つまらないアルコール飲料になってしまうのです。

これは、コルクがたくさん呼吸をすることによって起こる酸化と、天然素材であるコルクを消毒することで発生するTCAと呼ばれる科学物質が原因だとされています。

プラスティックを原料とする合成コルクは、一見、天然コルクの欠点を埋める代替品として開発されました。でも実は、天然コルクに比べて締りが悪く、酸化を防ぐことができないことが発覚したのです。時間をおけばおくほど、酸素が瓶内に入り込み、より酸化が進むため、長期の保存には向いていません。さらに、プラスティックのにおいがワインに移ってしまうという苦情もしばしば。このような新たな欠点が見られ、救世主とはなりませんでした。

これらのコルクの抱える問題、酸化とTCAを完全にシャットアウトする、優れた方法として、ステルヴィンと呼ばれるスクリューキャップが、ここで登場したのです。最多受賞ワイナリーのヴィラマリアを筆頭に、45の名門ワイナリーがスクリューキャップ・イニシアチブの参加ワイナリーとして、賛同しています。

ただ、どんなにスクリューキャップが優れていると立証されても、やはり、コルク信仰主義が壊滅することはありません。これは消費者に限らず、生産者にも当てはまります。ニュージーランドでも、コルク汚染のリスクがありながらも、一貫して天然コルクを使用しているワイナリーもあります。また、スクリューキャップを主に用いりながらも、プレミアムワインだけにはコルクを、と言うワイナリーもあります。

ここで現代のテクノロジーは、このコルク信仰主義者たちの夢に、救いの手を伸ばしました。新しいスタイルのコルク、ダイアム(DIAM)コルクが開発されたのです。

試しに、コーク・スクリューで開けてみると、おや、とても開けやすいではありませんか。おがくずも落ちないし、抜いたコルクの形もワイナリーの名前の焼印もスッキリときれいで、なんだか、未使用のコルクのような清楚な身なりをしています。

このダイアム・コルクって、一体何なのでしょう。何がどう良いのか、調べてみました。

一方ニュージーランドでは、名門ワイナリーのユニソンや、ミッション・エステート、ドメーヌ・ジョージ・ミッシェルなどが、ダイアム・コルクを使用していますが、スクリューキャップが9割の普及率を誇るこの国では、ダイアム・コルクのことを良く知らない、中には、その存在さえ知らないワイナリー、醸造家、ソムリエもいるほどです。本当に新しい技術なので、無理もないですが。

私の、大のお気に入りワイナリーのひとつ、クラギー・レンジ・ワイナリーの担当者、ジェニーンとお話をする機会があったので、聞いてみました。このワイナリーでは、

7割以がスクリューキャップ、残りが(最高品質の)天然コルク、ダイアム・コルクに関しては、今後試験的に採用するとのことです。「ダイアム・コルクの有効性は理解しているし、優れていると思う。でも、どんなに効果があると研究結果が出ても、数年、数十年という、長い時間を経ないと、本当の意味で立証できないよね」とジェニーン。いやはや、ワインの科学も奥が深いですが、ワインを美味しく保つパッケージの科学も奥が深そうです。

2007年7月掲載
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