NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第60回コラム(Nov/2007)
ブドウ畑の小さな教会~ワイティリ・クリーク・ワインズ~
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
著者紹介
ディクソンあき
Aki Dickson
三重県出身、神奈川県育ち、NZ在住。日本では、栄養士の国家資格を持ち、保育園、大手食品会社にて勤務。ワイン好きが高じてギズボーンの学校に在籍しワイン醸造学とぶどう栽培学を修学。オークランドにあるNZワイン専門店で2年間勤務。週末にはワイナリーでワイン造りにも携わる。2006年より約2年間、ワイナリーのセラードアーで勤務。現在はウェリントンのワインショップで、ワイン・コンサルタント兼NZワイン・バイヤーとして勤める。ワインに関する執筆活動も行っている。趣味はビーチでのワインとチーズのピクニック。
この著者のコラムを読む
みなさんは、ブドウ畑に囲まれてする暮らしを想像してみたことがありますか?春の芽吹きに胸が弾み、生い茂る夏の葉は青々としていて、元気が出てきます。実りの秋には、甘くて美味しいブドウがたわわと実り、鮮やかな紅葉の季節を迎えるのです。樹液がストップして休眠時期に入ると、冬の剪定作業が始まります。この作業で選ばれた数少ない芽から、次の春に若葉を覗かせるのです。
実はそんな夢のような生活をつい最近までしていました。日の出前には、早起きの小鳥たちのさえずりで目が覚め、日が昇ると一斉に鳴き始める裏のまきばの羊たち。日暮れ前には、ブドウ畑の合間の散歩。外灯がないので夜は真っ暗ですが、満月の夜は月が外灯代わりになってくれます。少し離れた所にある池の、カエルの合唱を聴きながら眠りに落ちるのも良いものです。家とブドウ畑の間にある、小さな林に設営したハンモックで、ワインを片手に読書を(しながら昼寝を)するのが日曜の昼下がりの日課でした。人里離れた場所なので、ごみ捨ては週に一回、2キロ離れた収集所に車で運ばなければなりませんし(車内が生ゴミ臭くなるー)、ガソリンスタンドもスーパーマーケットも遠く、少し不便ではありますが、めったにできないこんな優雅な生活がとても気に入っていました。
周りにあまり建物らしい建物がありませんが、近所に小さな教会があることに気づき、ある日曜日の朝に旦那と出かけてみました。教会だと思っていたこの建物は、なんとワイナリーのセラードアー兼レストランだったのです。名前は「ワイティリ・クリーク・ワインズ」。
小さな家族経営のブティック・ワイナリー、ワイティリ・クリークは、1993年に小さな一区画のブドウ畑から始まりました。その100年前、1893年に建てられたこの教会は、元々プロテスタントの一派、長老派の教会として始まったとのことです。当時の面影を残しつつもきれいに改装されたこの建物は、今でも静かで落ち着いた雰囲気があります。そして、周りに広がるブドウ畑と背景に堂々と聳え立つリマーカブル山脈が、訪れる人々を迎え入れてくれます。
建物に入ると、早速美味しそうな料理の匂いでおなかが鳴ります。でもまずは、ワインの試飲から。金賞を受賞した2005年ピノ・ノワールは、コクのある果実味あふれる芳醇な赤。ステーキやラム料理と合いそう。2006年ピノ・グリは、洋ナシのフルーティーな香りがきれいで、すっきりライトな辛口白。新鮮なシーフードと食べたい。2006年シャルドネは、しっかりボディーとキリッとした後味の辛口白。脂のよくのった魚料理や鶏肉料理との相性は抜群だろうな。(※上記ピノ・グリとシャルドネは既に売り切れです)
食べ物のことばかり考えながら、セラー・ドアー・マネージャーのニールの、ワイナリーの歴史やワインの説明を聞いていたら、ニールのイガイガ頭がコロッケに見えてきました。「料理との相性は?」などと話をそらしつつ、ランチのオーダーもついでにとってもらいました。
腕利きのシェフが、地元でとれた新鮮な食材を巧みに使って、見目に美しく繊細な味わいに仕立てた料理は絶品です。私はサーモンを、旦那はラム肉を注文しました。やっぱり!予想通り、脂ののったこのサーモンには、シャルドネがとてもよく合います。ラムとピノ・ノワールを少し試させてもらいました。最高のマッチングです。
ワインと料理とおしゃべりを楽しみながら、窓の外のブドウ樹と雪をかぶった山脈に見とれてしまいました。「夏の時期には、屋外のテーブルも満席になるんだよ。」と、盛況振りを誇らしげに話すニール。小さな隠れ家的ワイナリーとして、観光客にも地元客にも人気のワイティリ・クリーク・ワインズに、みなさんも是非一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
<豆ガイド>
Photos by Mike Thomas2007年12月掲載