NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第63回コラム(Jan/2008)
ワインと時間~瓶熟成の本当
Text: ディクソンあき/Aki Dickson
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- #瓶熟成
レーシング・カーで優勝を収めたドライバーが、大型のシャンパンボトルを勢いよく開けて、シャンパンのシャワーを浴びてお祝いをしている場面はお馴染みですね。大型の瓶に入れられたワインは、日本酒と同様お祝い事によく用いられています。
ワイン用の瓶のサイズはさまざま。一般的なサイズはフル・ボトルと呼ばれていて、750ml。その二倍の1.5リットル入るマグナム・ボトルは、一升瓶より少し小さいくらいのサイズですが、見慣れている一升瓶と比べて、マグナム・ボトルはインパクトがあります。さらに、マグナムの2倍で3リットル入るダブル・マグナム(ジェロボーアムとも呼ばれている)、そしてその二倍の6リットル入るインペリアルなどは、インパクトが強いだけでなく、希少価値も高く、オークションなどで、高値で競り落とされることもしばしば。
*熟成の本当*
そもそも、瓶熟成とは何なのでしょうか。熟成と俗に呼ばれているこれは、すなわち、瓶内で起こるワインの化学反応です。この反応は、瓶詰めされたときにワイン内に封じ込まれた微量の酸素と、コルクがゆっくり呼吸をすることで瓶内に入り込む僅かな酸素によるところが大きいです。ワインを構成している微生物や酵素、その他さまざまな化学物質が、微量の酸素と反応するわけです。酸素の量は微量でなければなりません。一旦ワインの栓を開けたワインは、また、質の悪いスカスカのコルクで栓がされたワインも、酸素が必要以上に存在するため、ワインを酸化させてしまいます。ちなみに、近年の研究結果で、無酸素状態での化学反応も瓶熟成を担っていると分かったそうです。
*熟成によるワインの変化*
熟成によって、若いワインのとがった酸味や渋みの成分の角が取れ、まろやかで滑らかな口当たりになります。そして、鮮やかで明るい赤色だったワインの色は、徐々に赤褐色、レンガ色に変化します。白ワインなら、鮮明なレモン色からオレンジ色や茶色みがかった色に変わります。加えて、揮発しやすいフルーティーな香りは熟成することで減少し、その代わりに、華やかな果実香の裏に隠れていた控えめな香りが浮き出て発達し、複雑さが増し、微妙で興味深い味わいをワインに与えるのです。
*熟成の長さ*
とは言っても、ワインは長く置けばおくほど良いと言うわけではありません。ワインにも依りますが、一般的に、赤ワインの方が白ワインよりも長期の熟成に向いています。
赤は赤でも、日本でお馴染みのボージョレーヌーボーなどの、ライト・ボディーの赤ワインは早飲みタイプのワインなので、熟成には向いていません。ブドウの品種で言えば、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルローなどの渋みの強い赤、リースリングなどの酸味の強い白、デザートワインなどが長期熟成に向いています。そして、それぞれのワインに寿命があるので、美味しさのピークを越えると下り坂になります。ワインを購入するときにお店のエキスパートに美味しさのピークを聞いてみましょう。
*熟成の条件*
熟成させる温度は、12~15℃が最適ですが、20℃を越えない、そして温度変化のない環境がとても重要です。また、25℃を越える環境の中では、ワインは熟成するのではなく、劣化してしまいます。光もワインを劣化させるので、暗いところで。コルク栓のワインなら、湿度のやや高い所を選びましょう。コルクが乾燥して縮むと、酸素が必要以上に入り込み酸化を呼びます。このように、瓶熟成に手がかかるので、暑い日本で長期保存するときは、最近では手っ取り早くワイン専用セラー(冷蔵庫)を用いる人が多いようです。
ワインはデリケートな飲み物です。手をかけることで(または高い冷蔵庫を買うことで)美味しく成長するのです。そして、一般食品や飲料と違って、賞味期限がありません。どんなに長く置いても(例えば100年、200年)、美味しさのピークを越えることはあっても、腐敗することがないのです。自分と同じ年の、時に自分よりも年上のワインと出会ったときの感動はひとしお。辛抱を要する作業ですが、時間を越えて自分色のワインになるのを待つ、ワインを育てることはとても楽しいものです。
ワインの瓶熟成も、ワインの魅力のひとつだと思います。機会があったら、是非辛抱強く待ってみてはいかがでしょうか。