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ワイナリーでよく見かけるモノと言えば、樫の樽とかステンレスで出来た背の高いタンクだったはず。ほかにもいろいろあるけれど、この二つは欠かせない。ところがなんと、ステンレスで出来た樽なんてものがGワイナリーに置いてあるではありませんか。「なんじゃこりゃ?」これが私の発した第一声でした。
まず、樽のサイズが肝心かなめです。ニュージーランドで一般的に用いられているのは、225リットル入るバリック(barrique)で、これ以外に、300リットル入りのホグシェッド(hogshead)や、500リットル収容できるパンチョン(puncheon)などの大型の樽もありますが、あまり用いられません。なぜなら、225リットルのバリックは、熟成の速度が最も早く、何年も待たなくても、樽の熟成効果が現れるからです。例えば、バリックで18ヶ月も樽熟成すれば、「長期熟成」と言えますが、これがパンチョンの場合だと、「未熟成」と言わなければならないところです。ですから、ほとんどのワイナリーでバリックが用いられているのです。
問題のステンレス樽に話を戻しますと、このステンレスの樽のサイズも225リットル。このサイズは、大型の発酵タンクに比べて、うんと小さい、つまり、ワインがオリに触れる確率が高く、相互作用が見込めるというのです。これが、この樽の一番の特徴ですが、樽に入れられた果汁は、酵母によって発酵が進み、酵母の死骸がオリとなります。オリはワインに複雑な味わい、コクのある風味を与えるのです。
だったら、小型のステンレスタンクを造って使えばいいじゃないかという話になりそうですが、樽の形だからこその利点があります。従来の樽専用のラックに積み重ねることが出来る、オリを混ぜる作業(リーズ・スターリング)も、従来の樫の樽で用いられる器具を使える、洗浄に際しても、従来の樽内洗浄器が使えるということです。
更に、樫の香りの影響を受けない、気孔がないので、酸化の心配がないなどの利点があるのです。ふむふむ、つまり、このステンレス樽は、樫の樽の代替品ではなく、ステンレスタンクの代替品と言うことになるのですね。そして、赤ワイン用ではなく、白ワイン用の発酵樽、熟成樽に用いられるようです。
ここで、はてなマーク頭の上にいっぱい浮いている方のために、樫の樽を使用する利点をおさらいしたいと思います。樫の木の細かい気孔から呼吸をすることで、樽の中に微量の酸素が進入しますが、この微量の酸素が赤ワインの色素を安定させ、タンニン(渋みの成分)をソフトにする効果があります。更に、樽の独特の香りは赤ワインに複雑な味わいを加えるので、ほとんどの赤ワインに樫の樽が用いられます。
白ワインの場合、フルーティーな香りが身上のアロマティック・ワインと呼ばれるものには樫の樽は用いられません。ただ、コクのある味わい、深み、ボディー感のある白ワイン造り(シャルドネ、ヴィヨンエイ、ピノ・グリなど)には、樽が用いられるのですが、通常、古い樽を使用して、樽の強い香りがワインに移らないように工夫したり、色素もタンニンも存在しない白の場合、酸素の侵入はあまり利点がありませんので、こまめにワインを補充してワインが酸素に触れるのを防いだりしなくてはなりません。
つまり、ステンレス樽は赤ワイン用ではなく、コクのある白ワインの醸造に用いられるのが適切なのです。Gワイナリーでも、リザーブ・ピノ・グリと呼ばれる、複雑な味わいを持ったコクのある白ワイン造りに用いられていたように。
樫の樽の醸造としての寿命は短く、定年退職した後は、植木鉢やテーブルなどに形を変えて活躍し続けますが、ステンレス樽の場合、半永久的に使用できますので、醸造にかかるコスト削減に貢献すると、製造者は謳っています。時代は変わるものですね。
実はこの樽、ニュージーランドで開発されたもの。国内最大手で実績のある工学技術カンパニー、ロブト・ストーン社の新商品です。さすがニュージーランド、新しい国は新しいアイディアを受け入れやすいですね。