NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第80回コラム(Jun/2009)
コアなニュージーランドワイン ザ・変り種 その4
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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日本が暖かくなっていく5月、南半球でのワイナリーでの忙しい時期は終わりに近づき、やっと筆を取れる時間ができました。今回は今年のヴィンテージお世話になった、ホークス・ベイのChurch Road Winery/チャーチ・ロード・ワイナリーより、Marzemino/マーツェミーノのご紹介です。

マァルツェミィィノ!!なんとな~く響きからもともとどこのブドウか想像がつくでしょうか?そうです、イッタリア~~ノです。北東イタリアで栽培されている赤ワイン用ブドウのひとつで、最近は北イタリアのワインがクローズ・アップされることが増えたとはいえ、数あるイタリア品種の中では日本で馴染みのない名前であるかもしれません。

他によく聞くラグレインやテロルデゴと親戚関係にあることがDNA調査で明らかになってきたようです。とはいえ、名前のちょうどよい長さといい、発音しやすさといい流行りそうな予感がしませんか?申し訳ないですがゲヴュルツトラミネールとかとはエラい違いですもんね…モーツァルトが一番お気に入りだったワインだそうで、かの有名なオペラ、ドン・ジョヴァンニでも言及されているらしいですよ。

「Versa il vino! Eccellente Marzemino!(ワインを注げ!最高のマルツェミーノをな!)」

チャーチ・ロードでは2001年から試験的に栽培を開始、現在6トンほどの生産量があります。かなり晩熟で、他にも色々栽培してみたのだそうですが、結局醸造してみてこの品種だけに適性と将来性が感じられたということです。ワインとしてのリリースはこれで2回目になり、もちろん、ニュージーではここでしかワインにしていません。初年度は200ケースのみつくったのですがすぐに売り切れたため、昨年は400ケースをリリースしました。気にかかるような名前も手伝ってまあまあの売れっこだそうです。ワインはヴァイオレットの香りの強いヴィオニエ入りシラーを思わせる香りですが、味わいは紫がかった色から想像するよりもミディアムで、ネガティブな意味でなしにとてもフード・ウェルカムなワインに仕上がっています。さらっと薄っぺらいわけではなく、複雑味は十分です。

オフ・ヴィンテージには世界中の畑とワイナリーを試飲して歩き回る、ここのワイン・メーカーのクリス・スコットは心底尊敬できるワイン・メーカーの一人です。毎日毎日すべての発酵中、発酵後のワインをテイスティングし、進行具合を確かめてからひとつひとつの溶解酸素量まで細かく指示を決めます。彼は太い筆でじんわりと円を描いたように、ワインにホークス・ベイの暖かさと複雑さを表現する天才です。それでいてひとつとして、重たすぎも、だらけてのっぺりともしていません。暖かい産地のワインは酸を添加して亜硫酸の効果や微生物学的に安全だといわれているレベルまでpHを下げるのが普通になっています。しかし実際にされてみるとわかりますが、よほどうまいことしないかぎりどうしても不自然な感じが残ってしまいます。「学校じゃあ危ないからってどんなタイプのワインでも、このタイミングでこれとこれを入れろってしつこく言われただろう?実際どこもみんな教わったとおり大体そうしてる。でも多くの偉大な生産者たちはみな大体、pHやTAのことは忘れろ、要は飲んでうまきゃいいんだ。って言うはずさ。補酸なんかしなくても、別に製品として問題がなければ、構わないだろう?」彼の卓越した舌と経験で紡ぎだされるワインのどれもが金賞を量産しているのも、それの証明といえるかもしれません。

ニュージーランドでワイン雑誌を買って、チャーチ・ロードのワインが載っていないものを探すのが難しいくらいどれも高品質なのですが、中でもお気に入りはヴィオニエとシラーでしょうか。酵母添加せず樽発酵させたここのヴィオニエは間違いなく世界でも最高ランクのものです。今年は初の試みで500リットルの大樽も導入しました。去年今年たまたまできた貴腐のヴィオニエのワインも、リリース前ですがおいしいですよ。

ここは中心街ネイピアにかなり近い場所にあることもあり、夏場はひっきなしにバスや車が出入りする国内でも人気のワイナリーです。訪れたらぜひ、チャーチ・ロードのワインに合わせて構成されたランチメニューを、気持ちよい日差しの下ガーデンカフェで楽しんでみてはいかがでしょうか。個性強くも素直においしいワインは、もちろん食事ともそしてホークス・ベイの太陽とも、これ以上ないマッチングを見せるでしょう。

2009年6月掲載
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