NZ Wine Column
ニュージーランドワインコラム
第82回コラム(Jul/2009)
コアなニュージーランドワイン ザ・変り種 その5
Text: 鈴木一平/Ippei Suzuki
鈴木一平

著者紹介

鈴木一平
Ippei Suzuki

静岡県出身。大阪で主にバーテンダーとして様々な飲食業界でワインに関わったのち、ニュージーランドで栽培・醸造学を履修。卒業後はカリフォルニアのカーネロス、オーストラリアのタスマニア、山形、ホークス・ベイ、フランスのサンセールのワイナリーで経験を積む。現在はワイン・スクールの輸入販売チーム、また講師として、ニュージーランド・ワインの輸入及び普及に関わる。ワイナリー巡りをライフワークとし、訪れたワイナリーの数は世界のべ400以上にのぼる。

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突然ですがみなさん、ワインって何からできてるかご存知ですか?何言ってんだブドウからに決まってるだろ、と思われた方、実は半分正解で半分不正解です。ワインとは狭義ではブドウ酒をさしますが、広義で果実からつくられた醸造酒、つまり焼酎のように蒸留してアルコール度数を高めていないもの全般をさしますので、実は世界中には様々な“ワイン”が存在します。特にわが国のフルーツ・ワインのバリエーションたるや相当のものでしょう。地方の物産展などに行くとありとあらゆる果物からつくられているような気がします…日本の酒税法上の分類もラベルを良く見るとわかりますが、実はブドウからできるワインはワインでなく「果実酒」と表示されています。

ちなみにお土産のフルーツのお酒は「果実酒」以外にも「甘味果実酒」や「リキュール」に分類されていたりもします。その違いがどこからくるものなのか、興味のある方は一度調べてみるといいでしょう。

さてここニュージーランドには、日本ではあまり知られておらず、ニュージーに訪れた人たちのみが合言葉のように使う?キウィ・フルーツの影に完全にかき消されている知られざる果実があります。

「フィジョア」………木なり果実で旬がとても短く、自然に地面に落ちるのを待って食べるためか、はたまた当たり前のようにあるためか、地元でも過小評価されている果物。ナイフや手で半分に割って中の身をスプーンか何かでくりぬいて食べるのが普通ですが、いちいちフィジョアごときにナイフもスプーンも使ってらんねえよとばかりに思い思いの方法でランチタイムにむしゃむしゃ食べられています。日本にはフィジョアなんてないよ、と教えても大抵あっホント~ぐらいのリアクションにしかなりません…無くてもみんな平気なんでしょうか…おいしいのになぁ。こう書くとニュージーランド固有のフルーツのようですが、もともとはブラジル原産です。(実はキウィ・フルーツも中国が原産ですけど…)その他の国ではパイナップル・グアヴァとして呼ばれているそうですが、それを知っている人間はまずNZにはいません。

そのまま食べる以外にも、家庭ではジャムやケーキを作ったり、市販品ではスムージーなどの飲料やジェラート、面白いところでは朝食のシリアルやウォッカに漬けたリキュールもあります。ここまでくれば予想がつくかと思いますが、そう、フィジョアのワインがあるんです。

世界で唯一かどうかわかりませんが、ホークス・ベイでフィジョア・ワインを生産しているのがPark Estate Winery/パーク・エステイトです。

フィジョアの旬は3月から6月くらい。このワイナリーではかなり遅なりの品種を使用しているので、ブドウにかなり遅れて、また大抵のご家庭の庭のフィジョアの木から実が落ちてからかなりしてから、フィジョアのワインの製造を開始するようです。まあ普通に考えて、ブドウと一緒の時期に仕込みじゃあわざわざ大変になるばかりですよね…。

ワインはまさしくフィジョアの香り…味はフィジョアそのもののイメージからやや離れるものの、さっぱりと飲みやすく仕上がっています。それもそのはず、フィジョアを食べるときは皮を外すのがほとんどですが、皮を食べてみるとライムの皮のような強いシトラスの味がします。果実のクラッシュ時にはさすがに1個1個くり抜かず皮を取り除かないので、そこからくる味なのでしょう。

今回はフィジョアが珍しいということでそれに焦点を合わせましたが、自分のお気に入りはここのワイナリーのボイズンベリーのワインです。日本ではボイズンベリーもあまりなじみのないものかもしれませんが、アイスクリームやヨーグルトのフレーバーなったり、これもニュージーランド国民にかなり愛されている果物のひとつです。甘みの多いフルーツ・ソースのようなワインで、レア・チーズケーキにかけたくなることうけあいです。去年は20トンほどのボイズンベリーを潰したそうで…ワインもいいけどそんときバニラアイス持って見学したかったなぁと、話を伺ったときはついそっちに考えがいってしまいました。

とかくフルーツワインなどはワイン通を称する方々には軽視されがちですが、試してみて損はないと思います。特に男性の方、カラオケ・ボックスで喉が渇いて超カシス・オレンジ飲みてぇ~と思っているのに、ついついビールをたのんでしまったりしていませんか?いつからかなんだか恥ずかしくなってしまうんですよね。こんな子供っぽいの飲めるかよ、なーんて格好つけたりして。誰もが最初はカルーア・ミルクや“カシオレ”から始まったのに、です。

ワインも同じ。自分も若い頃甘いロゼややさしいタイプのドイツワインなどから徐々に好きになってこうして今様々なワインを飲めるようになりました。ワインほど先入観や環境に左右される飲み物はないといいます。だからフルーツ・ワインもまた、そうなのでしょう。なんでもはなから小バカにせず飲んでみること。そして自分に正直になること。また人との違いを受け入れること。なんたって「ワイン」は、嗜好品ですからね。

みなさんが最初に飲んだお酒、そして、最初においしく感じたお酒って、なんでしたか?それから歳を少し重ねた今、それらはきっとまた違う感動を与えてくれるに違いありません。

追記 フィジョアまたはフェイジョアとして、日本でも苗が購入可能なようで、後日調べたところ栽培法などを取り扱ったウェブサイトも何件かありました。さすが日本、手に入らないものってないんですねぇ。

2009年8月掲載
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